これを読んでいる皆さんは、PC-FXのCPUとしてNECのV810が使われている事をご存知でしょうか。ここではそのV810とVシリーズ、そして基本的なICの知識についてのお話をしていきます。また、将来的には実際にアセンブラによる開発手順を見ていく為に、簡単なサンプルプログラムも作り、アセンブルする事をやってみたいと思います。
なお、V810のデータシートは、資料として一番簡単に手に入る上、非常に有益かつ唯一の情報源ですので、PC-FXの開発に興味のある方、以下をより充実して読みたい方は是非一度目を通しておきましょう。もちろん本稿もこれ(第三版)を参考にして作られています。
さて、NECエレクトロンデバイス(NECの半導体子会社)のページに行くと、既にV810自体の製品紹介は無い様です。
NECのマイクロコンピュータ、32ビットRISCのVシリーズは、V810を基本として、V810コアのV810ファミリ、V810を制御用途対応にしたV850コアのV850ファミリ、V810を高性能化(いわゆるマルチメディア命令の追加)したV830コアのV830ファミリに分類されます。
★は開発中('96当時)
[図1-1]V810ロードマップ(セレクションガイド1996.10より)
が、どうも今現在、NECはV810ファミリをほとんど商品展開していないようで、V810ファミリでは唯一V821の製品紹介しかページには載っていません。
Vシリーズの特徴としては、小型、低電圧動作、低消費電力、低価格などが売りになっています。用途としては、PDAなど携帯情報機器などへの組み込みが考えられているようですが、皮肉な事(?)に、NECのWindowsCEマシンのCPUには同じNECのVRシリーズが使われています。
他の用途としては、ファクシミリ、ワープロ、画像処理機器、リアルタイム制御機器があげられています。Vシリーズは、いわゆる組み込み型のワンチップマイコンです。強力な演算機能で押すというより、コストパフォーマンスの高さが求められる用途向けといえるでしょう。まあV850などはまさに制御用途ですが。
特徴的に同系列のチップとしては、日立のSHシリーズ、MIPSのRシリーズ(3x、4x系)、ARMシリーズなどがあげられます。SHシリーズは結果的にCE機に用いられるようになったわけではありますが、後になって当時のいわゆる次世代機のサターンにも用いられました。PDAとゲーム機に使われるという点では、MIPSのRシリーズ(3x、4x系)も同じような物かもしれません。プレイステーションに使われているのはR3000で、PDA等は4000系が使われているようです。なお、Nintendo64に使われているのはR4400です。ARMシリーズは次世代機では3DOに使われ(ARM60)、また、その低消費電力を武器にCE機にも使われています。
なお、先に挙げたNECのVRシリーズはまさにMIPS系です。MIPSはライセンスが商売で、実際に工場で作っている所(セカンドソースサプライヤー)は数社あります(NECもその一つ。VRシリーズがそうです。)。
(しかしEmotionEngineったって結局MIPS系だと思うのだが。まあいいか。)
ちなみに、"V810"という名前は愛称で、品名は"μPD70732"となっています。これは、品名についてを見る事で、MOS型のデジタルICという事が分かります。これは一体どういう事でしょうか。
ICをその構造によって分類すると、半導体ICとハイブリッドIC(混成IC)に分ける事ができます。さらに半導体ICは、トランジスタで作ったバイポーラICと、MOSFETで作ったMOS型ICに分類できます。
MOSというのはMetal Oxide Semiconductor、すなわち金属酸化物半導体のことで、これは金属と酸化膜と半導体が三重膜になっているものを指します。
MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field-Effect Transistor)は、高速スイッチング素子として、バイポーラトランジスタに代わって利用される金属酸化物電解効果トランジスタ(長い^^;)です。
バイポーラトランジスタは、PN接合を電流が流れる、つまりP(正)とN(負)両方を利用するという意味で、二極性の(bipolar)トランジスタと呼ばれています。そもそも、トランジスタの基本機能というのは、電流の増幅およびスイッチングを行う事であり、また、一般的に「トランジスタ」という場合、バイポーラ型トランジスタの事を指し、FET(Field-Effect Transistor)やIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)とは区別されています。
これに対し、素子内部の電流の通り道としてN型半導体だけ、もしくはP型半導体だけを利用する素子が、電解効果型トランジスタ、すなわちFETです。FETには、接合型FETとMOSFETの2種類があります。接合型FETの例としては、正弦波発振機に用いられるものなどがあります。
MOSFETが接合型と違う所は、ゲートとチャネルが薄い金属酸化物(酸化シリコンSiO2)で絶縁されている事です。素子内の電流路をチャネルといい、ここではN型半導体がチャネルを構成しています。電子はソースからドレインに向かって移動し、電流はドレインからソースに向かって流れます。そして、P型部分は、ゲートと呼ばれる電極に接合されています。
MOSFETは、半導体の面積に対してチャネルが狭いので、素子の電流密度はバイポーラ型に比べて低いのですが、微細製造技術でチャネルを並列に多数繋いで、大きな電流を流せるようになっています。なお、MOSFETの特徴としては、本質的にインピーダンスが高い、つまりゲート電流がほとんど必要無いので、簡単なゲート駆動回路によって大きな電流のスイッチングができるという事でしょうか。
ちなみに、電流容量が低く、ON抵抗が小さくできない為に、大電流用のMOSFETが作りにくいというMOSFETの欠点に対して、(バイポーラ)トランジスタは面積当たりの電流が大きく取れ、コレクタ-エミット間の飽和電圧が低く、電流の大きさにあまり影響を受けません。この利点とMOSFETを組み合わせたものが、IGBTです。IGBTのゲート駆動は、MOSFETと基本的には同じと考えていいでしょう。
という事で、V810はPN接合を用いたバイポーラ型ではなく、MOSFETで作られたMOS型ICであるという事が分かって頂けたでしょうか。
V810のパッケージ(形状)には、120ピンプラスチックQFP、120ピンプラスチックTQFP、176ピンセラミックPGAの三種類があります。このうち、PC-FXに使われていたのは120ピンQFPのようです。(参考)
[図3-1]120ピンプラスチックQFP(Quad Flat Package)
QFPというのは、身近な所ではintelのチップセットのFX、VXの形状などがそうですね。ちなみにTQFPはTiny Quad Flat Package、PGAはPin Grid Arrayの略です。
オーダ情報
オーダ名称 パッケージ 最大動作周波数(MHz ) μPD70732GD-16-LBB 120 ピン・プラスチックQFP (□28 mm ) 16 μPD70732GD-20-LBB 〃 20 μPD70732GD-25-LBB 〃 25 μPD70732GC-25-9EV 120 ピン・プラスチックTQFP (ファインピッチ)(□14 mm ) 25 μPD70732R-25 176 ピン・セラミックPGA (シームウェルド) 25 V810の動作周波数には16、20、25MHzの三種類がありますが、16、20MHzはQFPパッケージにしか存在しません。FXでのV810のクロックは、実装されたV810のシルク表記から定格25Mhzのものだと思われます。
品名の数字のあとの記号は、先程の品名についてによれば、パッケージコードだとわかります。GDはQFP、GCはTQFP、RはPGAという事でしょうか。なお、その後のLBBや9EVは端子形状をあらわしているようです。
という事で、FXに使われていたV810の正式なオーダ名称はμPD70732GD-25-LBBということになるかもしれません。
さて、V810のプロセッサとしての性能は、アドレス、外部バス共に32ビット、アドレス空間4Gバイト、動作周波数25MHzにおける性能は18MIPSとなっています。これがどの程度の性能なのかは、§5で扱いたいと思います。
§3で、V810のプロセッサとしての性能を出しましたが、これは当時のいわゆる次世代機のCPUとして使われていたプロセッサと比較するとどのような位置にあるのでしょうか。
(以下鋭意執筆中)
(鋭意執筆中)
7.1 Links about V810
□ 製品情報
NECエレクトロンデバイス
V800 Series
V810 Family
□ ダウンロード
▼パンフレット
半導体総合セレクションガイド -2000.4- (PDF)
32-bit RISC Microcomputer(PDF)
V800シリーズ開発環境(PDF)
▼データ・シート
V810(μPD70732)32ビット・マクロプロセッサ(PDF)
▼ユーザーズ・マニュアル
V821[ハードウエア編](PDF)
V810のデータシートはダウンロード出来るようですが、ユーザーズマニュアルは、V810をコンパクト化し周辺機能を内蔵したV821の物しか無いようです。
7.2 References to V810
▽V805,V810 ユーザーズ・マニュアル ハードウエア編:U10661J
▽V810ファミリ ユーザーズ・マニュアル アーキテクチャ編:U10082J
▽V810ファミリ ユーザーズ・マニュアル(GMAKER PLUS付属) アーキテクチャ編からの抜粋です。
ちなみに、NECエレクトロンデバイスのページにあるマイコン入門はごく初歩の内容ではありますが、よくまとまっていて、知識の整理に1度目を通す事をお薦めします。もちろん、本当に入門から始める方にも十分で適切なな内容だと思います。
しかし、96年のセレクションガイド(それしか持って無いのだが)を見ると、お問い合わせ先はあくまで日本電気株式会社の半導体ソリューション技術本部技術情報支援部になってるので、半導体事業は子会社にされたんでしょうな。タブソ。(ぉい
まあ半導体に限らずNECはグループ再編やりましたからね。
HE解体もその一環だったような。
(HEについては再編云々以前だという話もあるが(ぉ
お願い:
1997、1998、1999年のNECの半導体のカタログを譲っていただける方がいましたら宜しくお願いします。
また、ここで触れられていないV810関係の文献、情報がありましたらご連絡を。
参考文献
▽半導体総合セレクション・ガイド1996.10 平成8年10月1日 第15版
編集・発行 日本電気株式会社半導体ソリューション技術本部技術情報支援部
▽図解・よくわかる電子回路 1997年9月25日 第9刷
著者 加藤 肇、見城尚志、高橋 久 発行所 講談社
▽V810ファミリ ユーザーズ・マニュアル(GMAKER PLUS付属)
▽ゲームラボ'97/04(ぉ
2000.04.20 とりあへず公開
2000.04.21 若干修正
2000.05.04 データシートを読んでみた(ぉ
2000.05.07 図を追加
2000.05.10 表現の改善。その他細かい修正。